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【125EXC TE125】エンジン腰上オーバーホール

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Summary
  • 125EXC、TE125のエンジン腰上OHの記録
  • 必要となる部品や工具、手順を解説

OHをするにあたって

我々が所持する125EXC、TE125たちがおおよそ購入して1年が経ちました。このエンジンの腰上に関しては、半年でピストンリング、1年でピストン交換が目安とよく言われています。

ですが、モトクロスはもとより、クロスカントリー、(オンタイム)エンデューロよりもエンジン的にはマイルドな使い方をしているので、まあ1年毎にピストン交換でいいだろうと相成りました。クラッチは良く焼いたり開けたりを繰り返してますが…。

125EXCエンジンの腰上OHについては、すでに多くの情報がインターネット上で散見されますが、初心者ならではの留意ポイントもあったので、その辺のことを丁寧に記載できればと思います。

写真はMY2016 TE125 x2、MY2012 125EXC SIXDAYSの計3台を作業をした時のものです。

必要な部品

PISTON KIT

腰上OHに必要な部品はPISTON KITを買えば全て揃います。

しかし、このピストンキットの存在がMY16以降のパーツリストにしかなく、その辺が少し分かりにくいことになっています。

f:id:funairacing:20180420172053p:plain これはMY14のパーツリストですが、8番のセットが、50330207100 PISTON I CPL. 125というピストン周りの部品であり、2018年現在で20,200円します。

これの他に、50330097100 CYLINDER GASKET SET 125/200 07という、腰上OHに必要なガスケットやOリングがセットになったものがあり、これが4150円ほどです。

ふむ。合わせて24,000円ほどか。という感じですが、MY16のパーツリストには、なんとそれらがセットになったPISTON KIT GR.I125SX/EXC 01-14というものがあります。
下の図の赤丸のものです。
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このセットになったやつの方が発注が簡略化されていいじゃーんと思って価格を見ると、20,146円…。

ガスケット付きなのになんか安い…?

という不可解な感じになっているので、新品番のPISTON KITの方がおすすめです(?)

というわけで約2万円あれば腰上OHはできるということですね。大体1~2週間で届くと思います。


GR.Ⅰ とⅡ

注意事項として、部品を頼もうとする際に、パーツリストにGR.Ⅰ とGR.Ⅱ の2種類が存在すると思います。これは国産バイクのA/B/C刻印のように、ピストンに細かく2種類のサイズがあるということなんですが、基本的にほとんどの場合はGR.Ⅰです。ヘッドの外側面のどこかに刻印があったりなかったりするらしく、一番確実なのは装着されているピストン上面の刻印をみることなんですが、カーボンの堆積等で少し清掃に苦労するかもしれません。

GR.Ⅱの方はGR.Ⅰよりも少しだけ径が大きく、シリンダの摩耗が進んでいる場合はこちらを推奨とマニュアルに記載がありますが、シリンダボアゲージなんてものは一般のご家庭にはまずないので、ピストンの刻印で判別するのが良さそうです。

私の場合は新車で買ったし、まあGR.Ⅰだろうと思いGR.Ⅰを発注しました。(取り外したピストンを綺麗にしてみたらGR.Ⅰでした)

ピストン上面の刻印を見れば分かりますが、GR.Ⅰが53.94、GR.Ⅱが53.95となっています。0.01mmだけ違うということなんですかね。
実際にシリンダ壁面と接するのはピストンリングになるので、まあどちらでも大丈夫そうな気がしますが。

作業開始

取り外しの準備

まずはタンクを降ろします。タンクさえ下ろせば十分なクリアランスを確保できるのでらくらく作業できます。

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降ろしたらウォーターポンプのドレン(締め付けトルク: 15Nm)からクーラントを抜いて、シリンダヘッドを外します。
TE125の場合、エンジンハンガーはヘッドにくっついている部分と、フレーム側の前部分だけ外せばクイッと動くのでズラせます。125EXCの場合は2本留めなので普通に外しました。

ちゃちゃっとヘッドを外して、シリンダーも外します。

セル付き車両の場合はシリンダーのナットが一箇所セルモーターケースと工具が干渉する位置にあるので、ジェネレーターカバーを外して少しずらす必要があります。
また、セルが付いている場合は、ケースとシリンダーの間に土が溜まりまくるので今回みたいな作業をする際に、非常に精神衛生上良くないです。

そこまでセル付近のボルト等を外すならセル周りの清掃とグリスアップをしておいた方がよいでしょう。これについてはそのうち別記事にします。

シリンダーが固すぎで中々外せない場合はゴムハン等で軽く小突きながら抜くと外れます。ピストンさん御開帳です。

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ピストンとご対面

変なアタリもなく割りと綺麗でした。開けの足りない情けない走りばかりやっていたので、あまりダメージはないですね。モトクロス的な使い方で常に全開走行だとまた違うんでしょうけど。

ピストンを外す前によく観察。

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KTMのエンジンを開けるのは初めての経験だったんですけど、2つのピストンリングの開口部が随分隣接しているんですね。国産の2stのピストンは何車種か見てきましたが最低でも60度くらいは開きがあったイメージです。


ピストンを外す

ピストンを外すにあたって、まずクランクケース内に異物が落ちないように布やウエスでコンロッドの隙間を丁寧に塞ぎます。雑巾でもなんでもいいですけど、中に何かが落ちると取り出すのが死ぬほど面倒なので念入りに。

次にピストンのサークリップを外します。サークリッププライヤーがあると便利ですね。サークリッププライヤーの説明書きの絵が非常にわかりやすいのでこれを

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(STRAIGHT/ストレート) ピストンピン サークリップ プライヤー 19-433

(STRAIGHT/ストレート) ピストンピン サークリップ プライヤー 19-433

サークリップを外したらピストンピンを抜きますが、その前にピストンピンの穴周辺をドライヤーで温めると抜きやすいです。ヒートガンでもいいですが一般的なご家庭に中々ヒートガンはないのでドライヤーで代用です。

1台目のTEをやったときは3月の比較的寒い日だったので温めないと中々固かったです。温めると本当にスルッと抜けるのでガンガン叩くような必要もなく精神衛生上良いです。

抜く際は、専用工具があると良いですが、ない場合は、なにか棒状のもので押し出します。ピストンピンの径にちょうど収まるような大きさのソケットをつけたハンドルなどそんなもので良いです。ちょうどスピンナハンドルの持ち手の径がピッタリだったのでこれで押し出しました。 写真は外した後のものですが、イメージ的にはこの要領ですね。

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残り2台をやった時は、ピストンピンツールというノーベル賞ものの専門工具を手に入れていたので本当に楽に抜けました

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一つ注意点として、コンロッドを傷めないように注意する必要があるかと思います。当然、多少のマージンはありながらも、進行方向に対して横方向に動くように想定されていないと思うので、棒状のものを挿してハンマー等でガンガン叩くやり方は個人的にはちょっと怖いですね。

専用工具を使わずに押し出す場合でも、ピストンを手で抑えて、ゆっくりグーーっと押し出すようにするのが良いと思います。軽く叩く場合にもピストンは抑えてやったほうがいいです。あまりにも固いようでしたら、オイルを塗って前述のように温めましょう。


専門工具はこんな感じのやつです。Motion Proのは青くてかっこいいすね。 f:id:funairacing:20180420181651p:plain


ピストンピンを抜いたらピストンとニードルベアリングを外します。 これらも全てピストンキットに付属しているので新品交換です。
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新旧ピストンの比較です f:id:funairacing:20180420182138j:plain

GR.Ⅰピストンなので53.94外径です。矢印の方向が組み付け時の排気ポート側になります。ピストンリングはセットされた状態で箱に入っています。

ピストンの取り付け

外したら新品を逆の手順で組んでいきます。まず、ニードルベアリングをコンロッドの先につけ、2stエンジンオイルを塗布します。

また、ピストンピンを入れる前に片側のサークリップをセットしておくとより楽ですね。

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ピストンピンにもエンジンオイルを軽く塗り、押し入れていきます。

この際もピストンを温めてからピンを入れるとめっちゃ楽です。 なんのストレスもなく片手でスーーッと入ります。

再度ピストンの矢印が排気ポート側にきているか要確認です。

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ピンを入れたらもう片側のサークリップをセットしてピストンの取り付けは完成な訳ですが、KTMのサークリップがかなり硬く、手こずりがちです。ラジオペンチなどだとピストンに傷がついてしまうので、割り箸を使ったやり方がオススメです。

最初の1台目の時は割り箸を使わずに入れたので結構苦労しました。2台目以降は割り箸で一瞬で入りました。

このサイトに割り箸を使った例が紹介されています。写真は拝借致しました。

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プライヤーやラジオペンチで行って傷がついてしまったら、念のため軽くペーパーをあてておけば平気かと思います。

最後にサークリップの開口部の向きに注意しましょう。

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マニュアルには上記の画像のように向きが指定されています。

ガスケット類の交換とディスタンスX

ガスケット類の交換ですが、Oリングはキットに付属しているものをそのまま交換すれば完了です。ベースガスケットに関しては、厚さを任意のものに選択して交換することになります。

ベースガスケットの厚さによって、セッティングの変更ができるよう、ピストンキットには数種類の厚さのベースガスケットが入っています。
パーツリストで確認したところ、0.2、0.25、0.4、0.5、0.75の5枚が入っていました。

特に特性を変える必要がないのであれば、装着されていた状態と同じ厚さにすれば良いと思います。

ついていた物をノギスで測ってみます f:id:funairacing:20180718184731j:plain

ちなみに、純正は0.2mmと0.4mmの2枚合わせで0.6mmになっています。

新品も計測して、0.6になるように組み合わせます。 f:id:funairacing:20180710201954j:plain

そしてディスタンスXについて触れておきます。ディメンションXという風に表記してある場合もあるので、この辺は年式によるものでしょう。
リペアマニュアルには、ディスタンスXを計測せよ!って感じで、シリンダーを装着し、ピストンが上死点にある際の、シリンダーのエッジ部分とピストンの上面の間を0~0.10mmになるようにベースガスケットの暑さを調整しろ、と書いてあります。

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厳密にやるには測定にスペシャルツールが必要らしいのですが、前述のようにガスケットの厚さを変更せず、OH前のそのままにするのであれば特に必要ない。と色々なところで言われていたのでそういうことにしましょう。

シリンダーを装着する

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ピストンとガスケット類のセットができたら、あとはシリンダーを装着します。

シリンダーを装着する際に一つ注意点があります。

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この画像の赤丸で囲んだ腰下から出ている突起の部分、これが排気デバイスを動かしています。シリンダーをハメる際にシリンダー側の受け部分と合うように組む必要があります。

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この画像はシリンダーを下から覗いたアングルものですが、赤丸の中にコの字状のアームがあるのが分かります。 このフォークのようなコの字の中に腰下から出ている突起を収めるようにして組みます。

ピストンリングの開口部を正しい位置にあるのを確認し、リングがズレないように抑えながらシリンダーを入れます。

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新品のピストンとリングでストロークさせる時の密着感のある音はいいですね。

あとはOリングをセットして、ヘッド、シリンダー共に締め付ければ完成です。(ヘッドの締め付けトルク: 18Nm、シリンダー: 30Nm)

番外編:ディスタンスZ

リペアマニュアルにはディスタンスZの測定という項目もあります。

排気デバイスのコントロールフラップの下端からシリンダーの上端を測って調節する、というものなのですが、まあこれも通常の腰上OHでは不要であるというのが先人達の定説です。というのも、このディスタンスZは専用の工具がないと測定できないのと、腰下を分解しない限り、排気デバイスのフラップを動かすアームの位置は変わらないと仮定すると腰上では不要という論理になります。

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番外編:排気デバイスの清掃

完璧な腰上OHを実施するなら、当然排気デバイスの分解清掃もしたほうがよいです。

ですが、排気デバイスの清掃は結構緻密で面倒な部類の作業になるので、必ずリペアマニュアルを片手にやるのをおすすめします。

リペアマニュアルは、KTM、Husqvarna共に正規ディーラーに聞けば2~3000円ほどでCD-ROMを売ってくれます。英語での表記ですが絵もあるので、スマホ片手に読めばあまり苦労しません。Google翻訳のアプリならカメラに写したものをリアルタイムで翻訳できたりします。便利ですね。

本稿で書こうと思ったのですが、かなりの長さになるので排気デバイスの清掃については別に書きたいと思います。

ピストン交換の際に、シリンダーの外から手が届く部分や、排気デバイスの蓋を開けて、分解はせずともその機械部をケミカルやウエスで清掃するだけでも、堆積した汚れをある程度綺麗にできますので、毎回バラバラにする必要はないかもしれないですね。

腰上は自分でやるけど、メンテサイクルが腰上よりも長くて、作業も大変そうな腰下はお店に頼むかな〜なんて人は、その時に合わせて排気デバイスもやってもらうのも全然アリだと思います。腰下OH時には前述の排気デバイスを動かすロッカアームも分解するわけでディスタンスZを計測したりする関係もありますしね。

おわりに

こんな感じで腰上OH作業は終了です。

KTMでの例でしたが、他のメーカーでもほとんど変わらないと思います。
2stの腰上は非常に簡素な構造なので、是非一度は自分でやってみることをおすすめします。

やはり愛着が湧く部分がありますし、普段の自分の乗り方がどのくらいマシンを消耗させるのかも分かるので良いです。

次回、KTMセル周りメンテナンス