【125EXC TE125】クラッチプレートの素材による比較検証 (スチール/アルミ)
Summary
- アルミプレートとスチールプレートの比較
- ハードエンデューロで使用する際に求める事について
- Summary
- クラッチプレートの材質について
- 2T125ccでハードエンデューロをする場合のクラッチの重要性
- 3つの構成を試す
- オールスチール構成
- アルミ4:スチール2構成(純正)
- オールアルミ構成
- まとめ
クラッチプレートの材質について
多くのバイクのクラッチは、コルク等の摩擦材を使ったフリクションプレートと、金属製のクラッチプレートを互い違いに重ねる仕組みになっています。
最近気になっているのが、クラッチプレートの材質による乗り味の変化についてです。
上図のようにKTM125EXCエンジンのクラッチプレートは、アルミ製のクラッチプレート4枚と、スチール製のクラッチプレート2枚の計6枚のハイブリッドで構成されています。
以前、以下のクラッチ部品の他車種流用記事で触れましたが、エンデューロでの使用では耐久性の向上の為に全てスチールプレートに替えるカスタムが一般的になっています。
スチールに換装するメリットとしては以下のものがあると認識しています。
- アルミに比べて削れにくいので、削れに対する耐久性が向上する
- アルミよりも重いので、クランクマスの増加から低速域がよりマイルドになる
耐久性と低速に関してはエンデューロをするにあたっては当然重視される項目で、私のTEも例に漏れずに、右へ倣えでこの構成になっております。
ですが、一度中古の純正構成のクラッチ一式にしてから再度オールスチール構成に戻した際に少し違和感を感じました。
その違和感というのは、
- 純正構成に比べてタッチが悪くなった気がする
- レスポンスが悪くなった気がする
というものです。
特に2つ目に関しては、125ccでハードエンデューロをするにあたって、かなり致命的になるものです。
果たして考えなしで鵜呑みにしていた"定石"は自分の使い方に合っているのか。一度セオリーや常識を疑ってみることで分かることもあると思うので今回検証をしてみようと思います。
2T125ccでハードエンデューロをする場合のクラッチの重要性
ハードエンデューロでスタンダードである2T250や300の大排気量に比べ、パワー・トルク共に劣っている125ccでは、ヒルクライムやいわゆる「イゴり」においてクラッチが生命線です。
ヒルクライムは、文字通り登れないと進むことができない(周回することができない)ので、個人的には一番の難所になります。ガレとかはまあ、最悪根性でどうにでもなりますが、ヒルクライムに関してはそうはいきません。
特に、助走が取れないレイアウトになっている坂、段々になっていて踊り場での爆発的な再加速が必要な坂、またクネクネと曲がっていて直線的なライン取りができない坂などは鬼門になります。当然ハードエンデューロのレースになると単調なものは少なく、そういったテクニカルなものが中心になるので、まずはそれを超えないと周ることができません。
その際に必要になるのが繊細なクラッチの操作です。
どのような排気量であっても、上記のようなテクニカルなヒルクライムを攻略するには繊細なクラッチ・スロットルワークが必須になりますが、125ccにおいてそれはよりシビアなものになります。
大排気量がスロットルの小戻しだけで対応できる場面でも、125ccではスロットルは極力開けたままクラッチで出力を調整しないといけない場面は多々あります。
また、短い距離での助走や再加速をする際、トルクでの誤魔化しという概念がない為、繊細なクラッチ操作での溜めが必要です。
3つの構成を試す
上記のようなユースケースを考えた場合に、クラッチのタッチやエンジンのピックアップの良さなどは大きな要素になります。
個人的には、現状のクラッチの繋がり方をもう少しシャープに、リニアに(?) 言葉でいうと難しいですがキレキレにしたいと思ってます。
クラッチディスクの素材の変更においては、耐久性、重さによるエンジン特性の変化等があるかと思いますが、今回の目的としては、耐久性はある程度無視して、とにかくタッチやレスポンスを良くしたい、という主題です。クラッチが耐久してても登れないとDNFになっちゃいますからね。長持ちよりも登りたいンです。
もちろんこれらはキャブレターのセッティングや、給排気系の要因でもあります。しかし、それらの構成を変更せずに、クラッチの構成のみを変更した場合に、乗り味が変わっていた印象を持った為、今回3種類のクラッチ構成を試して比較してみようというものです。
比較するのは以下の3つになります。
- オールスチール構成 (現状)
- アルミ4:スチール2構成 (純正)
- オールアルミ構成 (未知)
KTM125~200系のエンジンにしか適応されないニッチな人柱情報ですが、参考になる方がいたら幸いです。
オールスチール構成
クラッチプレートを全てスチール製にする仕様です。流用としては以下のホンダ製のものが使えます。
22321-KF0-770 CRF250R純正
まず重さ
1枚Ngなので、6枚でNgになります。
オールスチール構成なのでアルミは使いませんが、比較の為重さだけ先んじて書いておきます。
アルミの場合は1枚21.5gでした。
1枚あたり+Ngの差があるので、純正比でいうとx4で+Ng重くなっている計算です。オンスでいうとNozなので、フライホイールウエイトだと思うと理解しやすいでしょうか。
常にクランクと共に回っているわけではないので、フライホイールの重さと同様の影響があるわけではないですが、イメージ的にはそんな感じです。
当初、純正状態からオールスチールの方がいい!と聞いて替えた際には以下のようなメリットを目論んでいました。
- 低速がより扱い易くなる
- 耐久性が向上する
- オイルが汚れにくい
低速が扱い易くなる
これについては若干ながら効果を感じました。Ng分重くなっているわけですから、より慣性力が働き、低速のトルク感が増している印象を受けました。フライホイールウエイト装着による効果と同様に、低速の粘りが向上してエンストしにくくなるというのも定説ですが、元々エンストしにくい2stエンジンではありますし、これに関してはV-Forceを入れた際の方が恩恵を感じられました。
耐久性が向上する
これはクラッチプレートの"削れ"という意味では間違いなくそうでしょう。アルミのクラッチプレートは削れ易く、下の写真の左のような削れ方をします。
しかし、削れ以外の要素ではそこまでスチールに優位性がないようにも感じます。というのは、クラッチの焼けに関してです。過去2回、TE125のクラッチを炭化させたことがありますが、どちらもオールスチール構成の時でした。
一般的に、アルミはスチールの約3倍の熱伝導率を有する素材です。熱伝導率が高いということは熱を伝え易く、その反面急速に冷えるということです。要は熱しやすく冷めやすい。この先は憶測の域を出ませんが、クラッチを切ってプレート同士が離れている場合に、オイルによってプレートが冷却されるわけですが、熱伝導率の高いアルミの方が冷えやすいことになります。しかし、繋がっている場合には、クラッチプレートの熱がフリクションプレートに伝わるわけでその場合は焼けやすそうな感じもしますが…。
少なくとも個人的な過去の経験的に、クラッチカバー内を冷却するものがギアオイルである以上、熱伝導率が高いアルミの方が焼けにくいのではと思った次第です。フライパンも蓄熱性の高い鉄のフライパンが至高と言われますしね。
この辺の話はもし専門の方がいたら教えてください。
オイルが汚れにくい
これは結構言われてることですが、正直個人的にはあまり差を感じません。というか、どっちにしろ汚い。 いつも2回走行(レースなら1回)くらいのサイクルで替えてしまうので、そういう意味でも大した恩恵を受けていなそうです。
アルミ4:スチール2構成(純正)
KTM様の叡智の象徴である純正構成です。
「純正こそ至高」間違いないです。だってめちゃくちゃ頭が良いPh.Dとか持ってる機械工学の専門家が考えたのですから。純正おじさんのいうことも完全に納得できるわけです。
アルミのプレートもHONDA製のものが流用できます。
22321-KA3-710 CR125R純正
アルミは1枚21.5gだったので、4枚で86g。真ん中2枚はスチールなので、Ng x2 でng。
86+Nで、計ngの構成です。
上にも書きましたが、オールスチールと比べると-Ngになります。nオンスです。
肝心な乗り味ですが、良くも悪くもかゆい所に手が届くような感じです。大きい岩がゴロゴロしているようなガレを、割と省エネな感じで踏みしめて進みたいような時はオールスチールの方が間違いなく乗りやすかったです。ただ、ある程度開けながら空転させながらもゴリゴリ進んでいく感じであれば特に差異は感じません。ワイドオープン オア ダイ。
逆にクイックな全開が求められるヒルクライムや、ちょっと大きめのステアなどはオールスチールに比べると遥かに良かったです。「あとワンテンポ、いや0.5テンポくらいレスポンスが良くなってほしい」みたいなフワッとした願いが叶った感じがしました。
かといって余りにもビンビンでスカスカなわけでもなく、落とし所に落ちている雰囲気なのでしょうか。純正って感じの良さです。
オールスチールとどっちを選ぶか、と言われると、私は純正構成を選びます。回して乗りたい場合はこっちのが良さそうです。125だと回す以外にないのですが。
オールアルミ構成
魔の領域、オールアルミ構成です。
流用で使用しているCR125Rがオールアルミであることからも、なんとなく予想はできそうです。 なんかこう、モトクロッサーぽいキレキレで良くも悪くも軽〜い感じなんじゃないかと思っていました。
重さ的には、1枚21.5gなので、x6の 129g。 純正比で -Ng。 オールスチール比で -Ngです。
実際に乗ってみた感想ですが…純正構成とそこまで変化を感じられませんでした。笑 もちろんオールスチールに比べると、純正構成の項で挙げたような変化を感じられるかと思います。ですが純正構成との比較だと、プレート2枚分の差(Ng)しか重さに違いがないからなのか、プラシーボ的な変化しか感じられませんでした。確かに、若干?純正構成よりも更にクラッチの動力がリニアに伝わっている感はありました。
まとめ
私個人のユースケースだと、純正≒オールアルミ>>>>>オールスチール のような心象になりました。
理由としては、オールスチールとの比較に関しては前述した通りです。ハードエンデューロで2st125ccを使う事に関しては純正(オールアルミ)構成の方がタッチ、レスポンスに関して上回っており、オールスチールにした際のメリット/デメリットと比べてもこちらに軍配が上がる印象でした。
次に純正構成なのか、オールアルミなのか、という二択についてです。これはフィーリングの違いというよりはコストや耐久性の話になってくると思います。
オールアルミ構成でしばらく乗っていてクラッチを開けて見た時に思いましたが、純正構成でいうスチールになっている箇所(真ん中の2枚)がアタリが強く付いていました。
純正構成がオールアルミから”よく削れる箇所だけスチールにした”構成になっていると感じた、ということです。
クラッチのタッチやレスポンスを最大限損なわずに耐久性と両立させる…と考えると純正構成がこのような形になっていることは納得がいきます。
ホンダ製流用ならアルミクラッチプレートは安く、webikeで3日以内に届きますが、真ん中2枚が削れているものを確認してローテンションしたり、交換したりする手間を考えると、純正構成に軍配が上がる印象でした。
番外編として、CMPクラッチプレートがあります。
アルミクラッチプレートながら、特殊な加工が施されており、通常のアルミプレートの5倍の耐久性があるという触れ込みです。
少し値が張りますが、5倍もつならアリな選択肢かもしれません。機会があったら試してみたいと思います。